ザ・モール

おススメ度 97

 

www.youtube.com

 

※ドキュメンタリーの内容に触れていますので、未見の方はご注意ください。

それどころか、未見でご覧になられた方が良いと思います。

 

あらすじはこんな感じ

 

「誰がハマーショルドを殺したか」のマッツ・ブリュガー監督が、デンマークの一市民が北朝鮮の国際的な闇取引(武器密輸)のネットワークに潜り込み、その実態を暴き出すさまを描いたドキュメンタリー。デンマークの元料理人ウルリクは、北朝鮮の闇を暴きたいという思いから、スペインに本拠地をもつ北朝鮮との文化交流団体KFAにスパイとして潜入する。コペンハーゲン出身で麻薬密売人の相棒とともに、独裁国家北朝鮮に潜入した2人は、長年にわたる団体への貢献によりKFA会長の信頼を得、武器や麻薬を製造、供給する北朝鮮の国際犯罪組織の中枢へと潜り込んでいく。商談を重ね、契約を結んだウルリクは武器輸出ビジネスの実態を目撃。やがて自身もアフリカ某所での兵器と麻薬の密造工場建設計画に深く関わることとなる。ウルリクがひそかに撮影していた映像素材に、ブリュガー監督がナレーションやインタビューシーンなどを加え、完成させた。2020年秋に英国BBCと北欧のテレビ局で放送され、21年2月に「潜入10年 北朝鮮・武器ビジネスの闇」のタイトルでNHK-BSでも放送されて反響を呼んだ内容に未公開シーンなど追加している。

以上映画.comより

 

 

 

最初劇場の予告編を見た時に、ドキュメントにしてはあまりにも荒唐無稽で、話が飛躍していたので勝手にフェイクドキュメンタリーと勝手に思い込んでいました。

でも、何か凄く引き付けられるものがあって鑑賞に至りました。

スパイ経験が無い元料理人(ウルクル)が、北朝鮮にスパイとして10年間活動していた記録と言われてもさぁ、と思っていたのですが、実際に見たら息を呑む映像の連続で圧倒された次第です。

 

このドキュメントの登場人物が、役者が演じるているかのような個性の強い面々で、

最後ウルクル一同が『実は、全員役者が演じていました』とドッキリと書かれた看板をもってきたとしても、驚かないくらいの現実感の無さなのですが、これらの事が現実で起きていることに得も言われぬ怖さ感じました。

 

それと、ウルクルが北朝鮮のパイプを繋ぐため、最初に地元デンマークで活動している北朝鮮友好協会に加入して、着実に重要ポストに就任するのですが、その友好協会の内情も少し映し出されていて、現在は高齢化が進んでいる事、意外と若い男性が新加入するが、その大半が失業中であったりしていて、社会から外れてしまった人々の居場所としても機能しているのを見てとれたのが、興味深かったです。

 

社会的立場から解放出来て、ゆっくり集える場所があれば、この若者たちは、ここには来なかったろうし、サードプレイスは本当に大事だなと改めて思いました。

 

その後もウルクルの快進撃は続いて、北朝鮮でKAF(北朝鮮親善協会)会長のスペイン人、アレアハンドロと出会い、投資家を探すよう命じられて、話は急激に展開してくことになる。

 

そこで、フランス軍外人部隊に所属していた『ジム』という男を呼び寄せ『ジェームス』という名で、偽の投資家役に起用する。

 

国連から経済制裁を受けている北朝鮮は、あらゆる輸出が制限されてるため、貿易が出来ない状態になっているので、外貨獲得手段として行われているのが武器や覚醒剤の違法取引というのが映画っぽいなぁ、と思ったのですが、すぐさま「これ、現実の話だ。」と思い直しました。

 

その二人が、北朝鮮から武器リストと購入金額が記入されている書類を手に入れて、帰国するまでの道中ずっと緊迫感が続くので、生きた心地がしませんでした。

 

ドキュメンタリーの中で私が印象に残っているのは、ウガンダにある孤島にリゾートホテルを建設して、離れた地下に武器工場を作成するという、一見嘘みたいな計画の視察の際に、島民達が「病院を建てるための視察」と聞かされて歓迎するシーンでした。

その時ウルリクとジムは、心の中で何を考えていたのだろうか、実際にはホテルや武器工場は建設されない訳なのですが、スパイ任務はドラマのように相手だけを騙すのではなくて、関わる人々を騙すという事を描いているが生々しかったです。

 

島に住む人たちからすれば、病院が建設する話が無くなり落胆するとは思うのですが、もしこれが本格的に始動したら、島民たちは立ち退きに合う訳で、他人の思惑で、自分の大切な物が奪われたり、破壊されてしまう危うさをこれでもかというくらいに受け止めてしまったので、このあたりはスクリーンを直視するのが本当に厳しかったです

 

なにより、このドキュメンタリーの監督がウルクルとアレハンドロをパソコンで対面させて、ウルクルがアレハンドロにスパイだと伝えるシーンの緊張感たるやもうね、元々この監督2009年に北朝鮮を撮影したドキュメント「ザ・レッド・チャペル」を作成して入国禁止の状態になっていて、その時、航空券の手配をしていたのがアレハンドロという遺恨があるという状態。

 

なので、ウルクルから監督がパソコンを通じてとアレハンドロと対面するシーンは何一つグロテスクなシーンでもないのだが、信頼していた人から裏切られる瞬間の顔を見るのは、どんなスプラッター表現よりもグロテスクに感じて、あまりの緊張感でこれまた画面を直視できませんでした。

 

しかしこれは、監督のウルグルに対するスパイを卒業する儀式なのではないかと思うようになりました。

 

投資家を演じたジムは、フランス軍外人部隊に所属後、大麻輸入で逮捕されて8年間の服役を経験しているからこそ、動じないしスパイ活動として任務も出来ると理解できるのですが、それと比べて、ウルグルのバックボーンの無さに、ある種の異様さを感じました。

 

ウルグルを見ていると、水をいれても少しずつ漏れてしまうコップを連想していました。

 

鑑賞後、これは見て良かったものなのか?と思いつつ映画館を後にしたのですが、その際、何者かが尾行しているのではないかと思い、後ろを何度か振替えったのは初めての経験でした。

 

この後ウルグルは日常に戻って平穏な生活をおくっているのだろうか?

北朝鮮側で関わっていた人物はその後どうなったのか?

そんな事を思いながら、帰宅の途に就きました。

 

これは、映画館で見てこそのドキュメンタリーですので、最寄りの映画館で上映していましたら是非ご覧ください。