君たちはどう生きるか

 

 

宮崎駿のイマジネーション度 ∞

※ネタバレあり。

 

解説

宮崎駿監督が「風立ちぬ」以来10年ぶりに手がける長編アニメーション作品。

千と千尋の神隠し」で当時の国内最高興行収入記録を樹立し、ベルリン国際映画祭でアニメーション作品で初となる金熊賞、ならびに米アカデミー賞では長編アニメーション賞を受賞。同作のほかにも「風の谷のナウシカ」「もののけ姫」「ハウルの動く城」などスタジオジブリで数々の名作を世に送り出し、名実ともに日本を代表する映画監督の宮崎駿。2013年公開の「風立ちぬ」を最後に長編作品から退くことを表明した同監督が、引退を撤回して挑んだ長編作品。

宮崎監督が原作・脚本も務めたオリジナルストーリーとなり、タイトルは、宮崎監督が少年時代に読み、感動したという吉野源三郎の著書「君たちはどう生きるか」から借りたものとなっている。

2023年製作/124分/G/日本
配給:東宝

以上、映画.comより。

いっさいCM告知をせずに劇場公開したジブリ作品というだけで、歴史的価値がある。

 

それが可能なのは、長年アニメ制作に携わっている。宮崎駿スタジオジブリが作り上げてきた信頼と実績。

その一言に尽きると思っている。

 

一切のCMも宣伝もしないと知った時「とはいえ、そういう宣伝なんでしょ?」

「主要キャラの情報を小出しに出しつつ、興味を煽るんでしょ?」と野次馬根性丸出しで不遜な事を思っていたが、7月23日現在、公式ホームページも一切なく、

『最新情報』として最低限のポスターの画像のみという徹底ぶりに狂気さえ感じている。

原作は2018年頃に『君たちはどう生きるか』ブームがあって、その時読んでいたのですが、この映画は原作を読んでいた方が衝撃度が増します。

item.rakuten.co.jp

 

冒頭5分間は、映画アニメの歴史に残る大傑作だった。

 

「オススメ度が∞とか書いている奴が何を言ってるんだ。」と思いでしょうか、冒頭5分間は本当に傑作でした。

 

冒頭5分間で面白くなさそうと思った映画は、大体面白くない。と書いていたのは、映画評論家の淀川長治氏ですが、この映画の冒頭5分間は映画館で見る価値があります。

空襲で目が覚める眞一。父親と一緒に二階に駆け上がり外の風景を見ると、母親が入院している病院が火の海に包まれている。

 

すぐに支度を整えて病院に走る眞一。その間も火の粉や、逃げ惑う人々が眞一を遮る。

その、火や人々が逃げ惑うアニメ表現を見た時、宮崎駿が躍動しているような錯覚を覚えるくらい、それはスタジオジブリのアニメ表現そのものでした。

その後、戦争で東京を離れて疎開するシーンになってからの『君たちはどう生きるか』のタイトルが表示されるまでの間。

自分の目はキラキラしっぱなしでした。

 

君たちはどう生きるか」の原作を読んでいた時の感想は、とても地に足の着いた話だったのを覚えていて、クラスメイトが授業を休んで家業の豆腐屋を伝っていたり、目に見えない社会の関係性を可視化する大切さについて書かれていたような気がします。

だからこそ、この映画が、まさかファンタジーの世界になった時は度肝を抜かれましたよ。

 

この映画の途中で、眞一が原作の『君たちはどう生きるか』を読み込むシーンが出た時は「それ、ありなの?」と思いました。涙ぐみながら読み終えていましたが。

てっきり、その原作を眞一が体験するんじゃないのか、メタフィクションなのこれ?見ていて混乱しました。

多分、これは宮崎駿の「これで原作のパートは終了。ここからは、俺の『君たちはどう生きるか』の映画パートだから」という宣言なのだと解釈しました。

 

眞一が疎開先で生活するあたりから、宮崎駿の創作エンジンに火が付き始めていきます。

 

疎開先の屋敷には、5人のおばあさんが使用人として登場するのですが、何故かおばあさんだけ、違うジブリ作品のようなビジュアルなのが凄いインパクトでした。

眞一や父親は『風立ちぬ』のような絵柄に対して、おばあさんは『ハウルの動く城の』にでてくる、荒れ地の魔女のおばあちゃんみたいなテイストなので、登場すると違和感が凄い。

疎開先で新しい母親になる、身ごもっている義理のお母さんが森に消えていって、それを探しに行く眞一。

 

そこで、登場してくるのがアオサギなのですが、アオサギがまぁ気持ち悪い。ただの悪口になるのですが、よくもまぁ、こんなに可愛げの無いキャラクターを創作出来るなぁ、と感心するくらい。アオサギが気持ち悪くて、逆に印象的でした。

 

アオサギが、言う訳ですよ。「お前のお母さんは下の世界で生きている。」と。

下の世界?ずっと頭から、?マークを出していましたが、映画は下の世界というか、異世界に行く流れになる訳です。

 

宮崎駿がこの映画を何故、告知を一切せずにこの映画を公開したかった理由が、何となく理解できたような気がした。

 

もし、この映画のCMを作成したら、確実に本質から外れるのが出来上がるのを嫌がったのではないでしょうか。

「この夏、ジブリが送る。不思議な冒険」とかCMでテロップで出された日には、勘違いして大挙して映画館に来る人たちを抑制したかったのだと解釈しました。

この映画、口コミで大ヒットするような内容でもなく、どちらかというと、淡々としているので、作品を純粋な状態で見て欲しいという願いもあったのだと思います。

 

映画も、死、食物連鎖、民族の奮起などを具体的や抽象的な表現を駆使していたりしますが、最終的には、少女と出会い、義理のお母さんを救います。少女というのが、病院で亡くなったお母さんだったりします。

 

ネタバレ終わり。

 

それよりも、途中で出てくるお爺さんがいるのですが、机に色々な形をした積み木を不安定に積み上げていて「積み木が倒れないようにして、この世界を保つのが私の仕事だ。」と言って、眞一にこの仕事を継いでくれ。と頼むのですが、眞一は現世に帰るため断ります。

それでも、引き下がるお爺さん。何なら、積み木を一つ増やせるから、これでこの世界の秩序や平和を君の力で保つことが出来る。とか、言ってくるので。

正直見ていて「うるせぇ!!黙れジジイ。」と思いました。

破綻寸前な世界を若者に託そうとする事自体腹が立つし、それと増やせる積み木も、形としては不安定な形をしているのも腹が立つ。

お前が作った世界なら、お前がケツを拭けよって話ではないでしょうか。

結局それも、眞一の後を追っていた者が、勝手に積み木を積み上げ倒れたため、崩壊して行く異世界と、そこから脱出する眞一たち。

母親だった少女も、別の異世界へと脱出して、眞一と別れを告げました。

 

この映画は、宮崎駿の宿題だと思いました。

 

今は解けない難問だが、時間を置くと新しい発見や気づきがあるかもしれない。

そんな問いが無い事を問い続けるような難問が『君たちはどう生きるか。』という映画なのだと思っています。

 

私はこの映画を観て良かったと心から思ったのですが、他人にお勧めするには躊躇する。そんな映画でした。

鑑賞後も自分の中で消化できず、他人にお勧めするには気が引けるような映画なので、自分の目で確かめていただければと思います。

 

自分の宝物を見せた時に、それを否定や嘲笑された時のショックは計り知れないので、誰にも見せない宝物のような映画でもありました。

 

 

この映画のタイトルは『君たちはどう生きるか』以外にありえなかった。

 

 

宮崎駿と同じ原作を見ているはずなのに、私の想像力は何て乏しいのだろうか。

君たちはどう生きるか』を読んで、こんな物語を想像する事何て出来なかった。

だからこそ、この映画を観て「想像力はもっと自由でもっと好き勝手して良いのだと。」御年82歳になる宮崎駿から言われているような気がしました。

 

吹き替えを担当した木村拓哉菅田将暉は、最後まで分かりませんでした。

特に菅田将暉は凄かったです。