『MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』

 

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おススメ度 98

※ネタバレあり。

 

解説

長編デビュー作「14歳の栞」で注目を集めた竹林亮が監督を務め、タイムループに陥った小さなオフィスの社員たちが脱出を目指して奮闘する姿を描いたコメディ。

小さな広告代理店に勤める吉川朱海は、憧れの人がいる大手広告代理店への転職を目指しながらも、仕事に追われる多忙な日々を過ごしていた。ある月曜日の朝。彼女は後輩2人組から、自分たちが同じ1週間を何度も繰り返していることを知らされる。他の社員たちも次々とタイムループに気づいていくが、脱出の鍵を握る永久部長だけが、いつまで経っても気づいてくれない。どうにか部長に気づかせてタイムループから抜け出すべく悪戦苦闘する社員たちだったが……。

主人公・吉川を「コントラ KONTORA」の円井わん、永久部長をマキタスポーツが演じる。

2022年製作/82分/G/日本
配給:パルコ

以上、映画.comより

 

広告代理店×無茶なクライアントの要求×激務の一週間=新たなタイムループの傑作が爆誕!!!!

 

主人公がタイムリープする映画だと、『ミッション・8ミニッツ』であったり、映画内の会話に出てきた『恋はデジャブ』『ハッピーデスデイ』なども観てるので、気にはなっていた映画でしたが、映画館の上映タイミングと合わずに、DVDで観ました。

タイムリープが主題になっている映画は、主人公だけがタイムリープに気が付いていて、そこから抜け出すために奮闘するというのがセオリーなのですが、主人公で大手広告代理店に転職を狙う吉川がキーパーソンでなく、社員全員がタイムリープに気が付く展開が見ていて新鮮でした。

吉川の前に、二人の後輩がタイムループを繰り返していているものの、直接吉川にその事実を伝えるよりも、少しずつ時間が繰り返している事を認識させていく工程が回りくどいと思って見ていたのですが、その後、後輩二人が吉川に上申制度を利用して、吉川の先輩、そのまた先輩、最後に部長伝えるための手段だったと伝えるシーンで納得しました。

そして、同僚を一人、また一人とタイムループの事実を認識させて、最終的には同僚全員で、本丸である部長にタイムループの事実を信じて貰うのがこの映画の肝な訳ですが、信じて貰う手段がプレゼンというのが現実的で、ラフな格好でのプレゼンから、カメラワークが移動した瞬間、全員がスーツを着てのプレゼンへと変わり、そこでの部長のやり取りが、切実でありながら何処か可笑しさがある名シーンでした。
なにより、部長を演じているマキタスポーツの演技がとても良かったです。

哀愁とチャーミングを併せ持つ奇跡のバランスはキャスティングの勝利と言っても良いでしょう。

それにしてもクライアントが思い付きで無茶ぶりする感じ、ありそうで本当に嫌でした。

私にとって異業種なので想像でしかないのですが、多分、あるのでしょうね、こういう事は。
あと、凄く軽薄な感じが電話の声で分かるのも、演じている役者の演技が上手いからこそだと思います。

そもそも、「味噌汁専用炭酸タブレット」で何だよそれ?

 

地獄のような一週間を過ごす羽目になっている原因は、今度発売予定の「味噌汁専用炭酸タブレット」なる物。


映画内で説明しているのですが、コンセプトも意味も良く分からない。世の中に無いからこそ、プレゼンで興味を引くために、資料制作のしわ寄せが押し寄せてくるのが現状。
しかし、タイムループを繰り返していくうちに、無茶なクライアントの仕事の発注に対して、プレゼン資料のクオリティがドンドン上がっていくのが見ていて痛快でもあり、味噌汁専用炭酸タブレットを購入したくなりました。

このタイムループは、クライアント先の大手広告代理店に転職を目指す吉川にとっては渡りに船な訳で、この状況をどう生かすかに重点を置いているのが、この映画ならではの設定でした。


あと、この映画の登場人物がタイムループだからと言って、仕事をサボったり無茶苦茶にしない事に好感を持ちました。


根底には、このループがいつ終わらないか分からないので、羽目を外すにしても元に戻れる程度にするという分別を持ち合わせているので、映画のストーリーがブレないまま進むのも良い。

 

会社の先輩にタイムループの話を伝えているリアクションが、仕事が激務に次ぐ激務なので。死んだ顔で「そうっすよね。」と聞く耳を持たない感じがリアリティがありました。

ハトがオフィスのガラスに衝突する事がタイムリープしている合図となるのですが、この職場にハトがガラスに衝突しなかったら、職場の全員が一生激務の中を生き続ける地獄のような日々を繰り返すと思うと、ゾッとしましたな。


自分のためか、相手のためか。

 

仕事を早く終わらせた吉川に、転職を目指している大手広告代理店から電話があり、会社に伺う事に。


そこで、憧れの社長に合うも、社長からは「結局、一人よ。誰も助けてくれないから。」と、ノートパソコンで仕事をしながら言われる吉川。


でも、社長の言い分も分かる。

社員に対してキツイ言動も感じたが仕事を請けている責任と重圧があるため、しっかり仕事をしてくれないと会社が傾く可能性もあるので、単純に善だ悪だと判断できない作りになっている。


同じ日々を繰り返す現状のなか、同僚の一人が部長が身に付けているブレスレットが原因とみて、部長自らの手でブレスレットを壊して貰う事に、これで、やっとタイムループから解放されると思いきや、やはり解放されない。

 

何か部長が心残りがある事を解消すればいいのでは?という話になり、ここからこの映画が急展開します。


ベテランの社員が、実は一番最初にタイムループに気が付いていたという事実。

今まで黙っていた理由は、前から言っていたが皆が信じてくれなかったから。という正論中の正論。
ベテラン社員が手にしているのは、部長が描いていた書きかけの漫画が描かれた原稿用紙。

この未完成のままにしている漫画を皆で手分けして書いて、最後のコマを部長に書いて編集者に送れば、もしかして、タイムループから抜け出せるという一縷の望みでマンガ作成に乗り出します。

 

イムループを脱するためには、マンガを完成すべし!!!!


同僚が全員、Gペンとインクを購入して漫画を作成する展開に。
それと同時に、クライアントの仕事もあるから最低限の仕事をしつつ、というルールも設けながら漫画を描き続けます。


全員ペンだこを作って、服もインクに汚れながら漫画制作に明け暮れる日々で、マンガが完成して部長に提出しても、マンガを編集部に送る事を部長が拒否し続けるので結局タイムループを繰り返すことに。


同僚も、仕事そっちのけで漫画制作に没頭して仕事が疎かになっていくなか、吉川だけが何とか仕事を済ませようと奮闘するも、全然手が足りずに困窮するのですが、その根底には転職するチャンスを逃してしまうという切羽詰まった事情があるものの、何とかしようとする吉川。

ある日、仕事を終わらせようと苦慮していると。部長が平身低頭でクライアント先に謝りながら電話をしている姿を目にするのを見た吉川。

その後で、同僚にマンガ制作に心血を注ぐことを決意します。

 

その時吉川は、自分本位ではなく、他者のために仕事をする事を選択した訳です。

もしかしたら憧れていた社長は、未来の吉川の姿だったとも考えられます。

憧れていた社長のワンマン体制の仕事と、マンガを作成するという共同作業が映画の演出として対比にもなっているので、凄い良いシーンとして印象に残りました。

 

そこで、マンガを完成寸前まで作成して、部長に提出する際に、この漫画を読んた感想のアンケート結果を提出したり、言葉で奮起させたりと社員総出で、部長にマンガを書いて貰えるようにお願いしていると、すこしずつ部長が自己開示をしていくのですが、それが私にとって、突き刺さった所もあって涙ぐみそうになりました。

部長の「他人のためだったら幾らでも応援する。でも、自分の事になると途端に自信が無くなって駄目なんだ。」は分かる、分かり過ぎてヒリヒリする。

マンガを発表する事が怖い。という言葉に対して「表現するというのはそういう物です。その考えに至っているという事は、部長は土俵に乗っている状態なんです。」は凄く勇気づけられました。

 

私も、こうして映画の感想をブログで書いていますが、ブログをアップする時はいつもビビりながら更新しています。


やはり恥ずかしいし、怖いんですよね評価される事が。
じゃあ、何で更新するかと言えば、恥ずかしさや怖さより、表現したいという思いの方が強いからです。


だからこそ、部長の考えは私の心に響きました。

話は戻って、部長が勇気を出して最後のページをペン入れして編集部に送ります。


吉川達が会社で目が覚めると、ハトがガラスに激突する音が鳴り響いたと思ったら、そこにハトは無く、部長がよろけて壁にぶつかった音で、タイムループから脱出した事を確信した同僚の面々。


しかし、このタイムループが終わる事は即ち、クライアントの仕事を全て放棄する事になるので、クライアントから吉川にブチ切れ電話してくる訳なのですが、そこは部長が矢面に立って上手くその場を治めます。

クライアント先の営業にも同情しますが、無理なスケジュールで仕事を振っていた訳ですから、自業自得な部分もあるんじゃないんですかね。(突き放すような感じで。)

 

最初、悪い人では無いけど頼りなさげな上司だったのが、最後は滅茶苦茶頼りになる上司へと印象が変わりました。

 

時間も82分と短く、見やすいので是非ご覧ください。


個人的にスタッフロールの最後のシーンで、全員で飲み会のシーンがあっても良かったかなと思いましたな。

 

 

イムループのジャンルで、一番好きな映画だったりします。