カード・カウンター

 

 

おススメ度 92

※ネタバレあり

 

www.youtube.com

 

解説

タクシードライバー」の脚本家ポール・シュレイダーが監督・脚本、マーティン・スコセッシが製作総指揮を手がけ、孤独なギャンブラーの復讐と贖罪の行方を描いたスリラー。

上等兵ウィリアム・テルアブグレイブ捕虜収容所における特殊作戦で罪を犯して投獄され、出所後はギャンブラーとして生計を立てている。罪の意識にさいなまれ続けてきた彼は、ついに自らの過去と向きあうことを決意するが……。オスカー・アイザックが主演を務め、徐々に追い詰められ復讐へと駆り立てられていくミステリアスな男ウィリアムを演じる。

ギャンブルブローカー役で「アンクル・ドリュー」のティファニー・ハディッシュ、ウィリアムと擬似父子のような関係を築く青年役で「レディ・プレイヤー1」のタイ・シェリダン、物語の鍵を握るウィリアムの元上司役でウィレム・デフォーが出演。2021年・第78回ベネチア国際映画祭コンペティション部門出品。

2021年製作/112分/R15+/アメリカ・イギリス・中国・スウェーデン合作
原題:The Card Counter
配給:トランスフォーマー
劇場公開日:2023年6月16日

以上、映画.comより

 


主人公の面構えを見る映画。


刑務所で日々を過ごしているただならぬ男の雰囲気だけでこの映画をスクリーンで観て良かったと思わせた。

 

冒頭からポーカーの必勝法である『カード・カウンティング』の説明をするのですが、門外漢の私としては、何となく分かるが実際には何か何だか分からない、しかし何か凄い事が起きているのが確か。くらいの感想しか出なかったのですが、グイグイ映画の世界に引きずり込まれて没頭できました。


主人公がポーカーをしながら、心の中で「どんなに顔を隠しても、イアホンをしても心を隠すことは出来ない」と呟いている感じや、目立つのが嫌なので、優勝はせずに準優勝を狙っているところなんかも、ベタな設定でありながらも実在感があって凄みがありましたな。


何と言っても、俳優オスカーアイザックの面構え。この映画はこれに尽きる。

 

途中カジノで青年がコンタクトを取ってきたあたりで、ギャンブル映画からサスペンスへと映画の雲行きが変わってくるのが独特な感じを受けました。


その青年は、父親が主人公と同じ時期にイラクに従軍していて、父親は帰国後に家族に暴力を奮い、自ら命を絶った事を主人公に伝えると、主人公の回想で2003年にイラク戦争で捕虜に対して暴力や虐待をしていたシーンに移ります。

そのシーンで、上司が言葉を匂わせて決して命令しない、嫌な感じ全開で虫唾が走りましたマジで。

映画を観ながら脳の記憶の蓋が空いて、頭にズタ袋を被せて裸にしたイラク兵の捕虜を前に笑顔の女性隊員の写真が発表された時の衝撃を思い出したのですが、誰もがそうなりえる戦場の恐ろしさと、異常性が垣間見た瞬間でもありました。

 

この映画では部下に指示した上司はお咎めなして、現場で実行した兵士だけが罰せられていたが、これは構造的な欠陥だと思う。


回転寿司屋で醤油差しを口にした様子を動画にあげていた人間が実刑を求刑されたが、それを煽っていた人間も同じ罪に罰せられないければこういう事が延々と続くだろう。

 

だからと言って死人に鞭打つような行為を肯定する気はない、死んだら仏という言葉もある。

しかし、仏になったとしても、人間の時は最低のクソ野郎だったという総評は必要だと思っている。

 

話を戻すが、その青年はその上司の自宅をグーグルアースで突き止めていて、父親の上司を睡眠針で眠らせ、屈辱的な格好にしてSNSで流出させることを画策している。


主人公は、それに賛同せずに「復讐は何も生まない。」と窘めるのですが、青年は「睡眠針もネットで購入した。」と語る軽さや、悲壮感よりも、情報が手に入ったから実行するという価値観。


手段が目的を追い越してしまっているスピード感が現代的でした。

 

この映画を何も知らないで見る事が出来て幸せだった。

 

予告編を見る限りギャンブル映画なのかと思ったら、ロードムービー、恋愛、ギャンブル、復讐劇など色々な要素があるのですが、この映画はギャンブルから少しづつ復讐劇の方へとシフトしていきます。

 

青年に札束を渡して「母親の元へと戻れ、そして休学している大学に通え。家に戻ったら連絡しろ。」と半ば脅してその場を去った青年が、主人公に送った写真がグーグルアースで見つけた上司の家の写真。


嫌な予感がした主人公がネットニュースを見ると、その青年が上司の家に侵入して銃撃で死亡したニュースを知る。

 

ポーカー大会の決勝戦の途中で車を飛ばして主人公が向かったのは・・・


最後、元上司の家に侵入して尋問、拷問チキンレース(どちらかが絶命するまで、尋問や拷問しあう。)が開始されるのですが、その描写が一切されず、誰もいない部屋と別の部屋から声だけが聞こえる演出は印象的で、最後生き残った主人公が警察に電話するシーンのボロボロ具合で、かなりエグイ事をしていたのだなと想像できるので、拷問シーンを見せられるよりも何倍も嫌でした。

従来の映画だと、復讐には囚われずに新しい道へと進む事が人間のあるべき姿だというメッセージが多い中、この映画は大切だと思った人が殺された時、どうしても許せなかったら復讐して殺せ、そして刑務所に入れ。


というメッセージは振り切っていて斬新でした。

 

参考にはなりませんでしたが。

 

登場人物が少人数で、決して派手な映画とは言えませんが、最後まで緊迫感が途切れなかったのは、俳優オスカーアイザックの表情だと改めて思いました。